主観重要、ビジョン重要@AgileJapan2010再演

先日、2010/06/08(火)にAgileJapan2010基調講演の再演イベントに参加してきました。
AgileJapanで基調講演を行ったのは、野中郁次郎さんという方で、ScrumというAgile開発の手法には浅からぬ縁のある方です。
というのは、Scrumという開発手法の名前こそが、野中さんの論文の一文からとられているからです。

再演イベントは、その野中さんのお話を、チェンジビジョンの平鍋さんが記憶の限りお話してくれる、という聞き逃した身としてはとてもありがたい、イベントでありました。
以下にその感想をまとめたいと思います。

ちなみに、野中さんが発表に使用されたスライドは、以下で見られます。
http://www.slideshare.net/hiranabe/agilejapan2010-keynote-by-ikujiro-nonaka-phronetic-leadershipagilejapanjapanese

<「主観」重要>
物事を客観的にとらえる、という人は、冷静で、大人な雰囲気を感じさせ、理知的であるという洗練された人格を想像させます。
一方、物事を主観的にとらえる、という人は、芯が強く、自己中心的で、強い個性を備えた人格を想像させます。
主観と客観は双方ともに重要で、いわば中庸であることが求められるのですが、社会生活において、私たちは、妙に物事において客観性を重視しています。

特に会社での仕事は、システム開発のみならず、客観性が重視されています。
客観性、を付与するために多くの場合に行われるのは数値化です。
物事には、定量的なものと定性的なものとがありますが、会社のような組織では定量的なもの、つまり数値が重視されます。
売上額、利益率、ROI、稼働率、コートのステップ数など、会社という組織は、あらゆるものを記録し、数値化しようとします。
ある程度までは数値化は行われるべきですが、過剰に数値を集め、数値しか見ずに判断し始めると、マイクロマネジメントを引き起こしたり、現実とは大幅に乖離した常識で決断を行うようになったりします。

一方、数値化することで多くの人が、共通の視点で冷静にものごとを見つめることができる、という利点が生まれます。

たとえば、昨年が6億円の売上で、今年が4億円の売上であるならば、「去年は今年に比べて2億円売上が高かった」もしくは「今年は去年に比べて2億円も売上が落ち込んだ」と共通に認識することができます。この数値にたいして、「いや、今年のほうが売上が高い!」と主張することはできません。
これが、客観性の優れているところです。
つまり、会社という各々の違う価値観をもった人々が集まる場で、数値のような客観性があると信じられる基準があると、人々は合意を形成しやすくなるのです。
2億円の儲けがある仕事と20万の儲けがある仕事のどっちが会社を金銭的に豊かにするか?という点なら議論の余地はないのです。

しかし、JAVAによる開発とC#による開発どっちが面白い?という点については、議論の収束は容易ではありません。
面白いさ、という主観をめぐって「俺はこうが良い」「私はあっちが良い」などという話になるでしょう。
かろうじて、アンケートをとるなどの他者の視点を取り入れて客観性を付与できるかもしれませんが、上記の儲けの話ほどシンプルにはなりません。

主観的な意見は、多くの場合、他者を説得できるほどの根拠がないために、合意を形成できません。
そのため、その意見は組織では力なく消え去り、多くの人が「良い意見だな」と思ったとしても、「ダメな意見だ」という人たちに反論するために客観性を付与する努力が不可欠です。
なぜか余計な手間をかける必要が出てきます。
ただ、気をつけなければならないのは、数値化をふくめ客観性を付与すること、すなわち客観の見地に立つことは、主観なしにできない、ということです。
これは、野中さんの

主観は客観から生まれない

という言葉を平鍋さんが紹介された時におっしゃっていた言葉です。

良い言葉だなぁ、とおもったのですが、明確な説明があやふやなので、以下は私の記憶とそれに基づく見解です。
ここで主観とは「思い」であり、「こうしたい」「ああしたい」という個人の情熱のようなものです。
その主観による観察や体験からの学びが、万人共通な知恵や知識として昇華されるときに、多くの人の主観、つまり客観にさらされて客観性を付与されてゆくのです。
客観性とは、結局、多くの他者の主観から成り立っているものなのです。
主観なしに客観が成立しない、というのは自明なのです。

ですから、主観重要、です。
すべての知識は、他者の主観という客観に陶冶されたある人の主観、つまり、多くの人々の主観と主観ぶつかり合いで生まれ磨かれたものなのではないでしょうか。
思ったこと、考えていること、やってみたいこと、素直にそれが表現できる場にこそ、新たな知が創造されるのです。

<「ビジョン」重要>
現在、会社のビジョンの策定に関わる身としては、

お金は会社にとって手段であり、ビジョンとはそのお金を使って実現したいこと

である、という野中さんの言葉には、Aha!な体験をさせていただきました。
なんとシンプルでわかりやすい言葉でしょうか。

私が仕事をするのはお金のためです。
もう少し掘り下げると、お金が欲しいのではなく、何かがやりたくて、欲しいからこそ、その交換の手段に用いられるお金を稼ごうとするのです。

もしも、使えきれないほどのお金があったとしたら、
自分はいったい何にお金を使うだろう、
自分の欲望を満たしきった後にまだやり続けたいと思うことは何だろう
こうしたことに答えることが、会社のビジョンを描くことなるのだと思っています。

<明日から何をするか>
私の言葉では、野中さんと平鍋さんによる言葉とその言葉からの学びを書ききることはできません。
たしかに、野中さんの言葉、平鍋さんの言葉は素晴らしい。
その素晴らしさは、Scrumのなかにも確実に受け継がれていると思います。
たとえば、Scrumのよさとは、プロダクトバックログ、という形で、本格的にシステムをつくる作業に入るまで、「どのようにその要求を実現するか」という手段を明示しない点にあります。
手段を明示しないことで、そのバックログにあるストーリーが、実はシステムで行わなくても良い、もしくは、もっと優れた方法があるというように、発見的なものづくりを実現しようとします。

しかし、これがどこまでお客様に求められているでしょうか。
システム開発は、いまや立派な3Kと呼ばれる職業であり、発見的、創造的な仕事よりも、安くて、早い、という仕事が求められているのです。
そして、顧客満足度が高いシステムがどちらで作られるか、という点についても確証はないのです。

この現状は誰の責任か、ということを言いたいのではありません。
教科書的に言えば、いままでそうしたモデルで稼ぎをあげてきた開発側とそのモデルに甘えてきた顧客の両者に問題があるのです。

真に考えるべきことは、我々はこれからどのようにシステム開発に携わるべきか、ということです。
システム開発という業界そのものが、ビジョンを求めているのです。
安い、早いを提供し続けるのか、それとも顧客の要望を発見的に満たしてゆくサービスを提供しようとするのか。
それを選んだら、今度は、それをどのように実現しようとするのか。

ウォーターフォールであれ、アジャイルであれ、それは手段です。
早かろうが、発見的であろうが、それは過程です。
システム開発のみならず、SIerをふくめてビジネスシステムにかかわる多くの人たちが、システムを通じて何を達成し、何に貢献するのか、というビジョンを求めているように思うのです。

そんななか、我々は一体、明日から何をすればよいのでしょうか。
再演イベントでもって帰ってきた宿題は、かなり大きいものだと思います。

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コメント / トラックバック1件 to “主観重要、ビジョン重要@AgileJapan2010再演”

  1. コート・ジャケットのブログ Says:

    […] 主観重要、ビジョン重要@AgileJapan2010再演 « エンピツとキーボード売上額、利益率、ROI、稼働率、コートのステップ数など、会社という組織は、あらゆるものを記録し、数値化しようとします。 ある程度までは数値化は行われるべきですが、過剰に数値を集め、数値しか見ずに判断し始めると、マイクロマネジメントを引き起こし …. システム開発のみならず、SIerをふくめてビジネスシステムにかかわる多くの人たちが、システムを通じて何を達成し、何に貢献するのか、というビジョンを求めているように思うのです。 そんななか、我々は一体、明日から何をすればよいのでしょうか。 … […]

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